脱走と追跡のサンバ
なんともまあ...世間様は騒がしいねえ。
玉石混在の多数多種の『情報』が入り乱れ...どこまでが真実でどこからが虚偽なのか、まるで解らん。
しかも...大部分が上げ下げ目的の糞な内容だけに、呆れ果てて距離置くなり、逃げ出したくなりますな。
ちなみに...人間が処理できる『情報』種・量てのは、自ずと限界がありまして...よからぬ連中は、それを越える『情報』を意図的に流通させ、許容量を飽和させて重要な『情報』を紛らわせている節が見受けられますな。
まあ...なるべくなら糞な芸能情報なんぞは自らで外し、許容量に余裕を持たせて下さいね...と。
さて...脱走と追跡。
実は...見事に忘れてました。
すみません。
たまたま知人に教えて頂いて...そういや読んだな...と思いだす程度の錆付いた記憶力ですんで、そこんとこはよろ。
何故に思い出したかというと...『脱走』と『追跡』の相反する『言葉』の韻が生み出す相対的で不安定な調和...という印象に強く惹かれた事だけは覚えてましたんで...
ただ、相対する力の調和の結果が騒がしいサンバとなるのは...まあ、狂気の天才・筒井康隆たる由縁ですなあ。
実は、その狂気の天才の最高傑作と謳われていながらも...消費者人気は今ひとつ冴えないとの事。
脱走と追跡のサンバ (角川文庫―リバイバルコレクション エンタテインメントベスト20)
- 作者: 筒井康隆
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1996/12
- メディア: 文庫
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筒井康隆神...この方も神様の御ひとりではありますが...私個人的には苦手です。
何故かと言うと...騒がしくて煩いから。
まあ、それが最高最強の武器であり、通常の読者が期待するところではありますが...
本作品は...ただ、ひたすらに騒がしく逃げるだけの内容です。
何から...て、この現世を縛る『情報』そして時間や空間から...
では簡単に...
ある時、SF作家である主人公『俺(おれ)』は、現在のこの世界が、本来、主人公が呑気に楽しく人生を謳歌していた世界から騙されて連れて来られた虚構の世界であると考え...この世界からの脱走を固く誓う。
そのためには...この世界の、情報による呪縛、時間による束縛、空間による圧迫、から解放される事により元の世界に戻れる...と考える。
脱出を阻止すべく追う謎の追跡者『私(わたくし)』の追跡を避け、どうやら主人公をこの世界に連れて来た張本人らしい女性『正子』を強引に連れ従いながら、解放の手段を求め奔走し...そして苦難の末、遂に脱走に成功した...のかな、というお話。
とまあ...文章は特に難解という訳でもなく、お笑い有りお楽しみ有りの読みやすい内容ですが...
登場人物達のやる事なす事、登場する舞台の世界観やら設定やら...もう総てが不条理で無茶苦茶で何の事やら訳解らん。
まあ...実際には緻密な計算に基づき綿密に構成しているとは思いますけども...
狂気の天才・筒井節炸裂!
不条理ドタバタ劇、シュルレアリスム・スラップスティックの金字塔...てな言葉を並べる感じで宜しいですかね。
ただまあ、この作品の本質はメタフィクション...物語中に登場する様々な事項や事象に、全く別の意味を投影したり暗喩を用いたりして、多重構造の話を紡ぐ...てところなんですよね。
つまりは...その投影されている事を想像するなり、或いは理解できないと面白味は半減するて事ですわ。
当然、何を連想するかは、間違いなく読者の自由です。
正統にいくなら...
謎の追跡者『私』は、こちらの世界は、とても快適な世界であるらしく...こちらの世界に居るべき『俺』て事ですか。
別人格でしたかいな。
この世界に連れてきた張本人の『正子』というのは、おそらくこの作品の元であろう『ドグラ・マグラ』的に言えば、母親て事になるんですわな。
まあ...何かしらで世界を変えられる存在なら、嫁でも愛人でも恋人でも、姉妹ても娘でも何でもいい訳ですが。
そうすると、話中で主人公が『情報』および『時間』『空間』から逃れるために講じた手段や過程が、実際には何を表しているかをいろいろ想像してみるのも面白いですわね。
敢えて言おう!
この話は〆切や編集者から逃げるための教本だと!
ち...違うかな。
ところで...これは人それぞれで、『こちらの世界』と『あちらの世界』にて、これらを隔てる境界を何と考えるかで世界は変わりますが、皆さんは何だと思いますか。
生死とか就寝とか、社会的地位とか保有財産とか、国境や民族とか、価値観とか精神世界とか...電脳世界なんてのもありますわね。
本作品は、その境界を乗り越える話でもある訳ですが、現実世界の隔たりは否応なく増すばかり。
まあ、そこら辺りは...人それぞれでて事で。
ではまた。
副産物:
たまに毛色の違う、ジュブナイル...今で言うラノベとか軽く書いて、大当たりさせ、ぼろ儲けしてますな。
『七瀬』シリーズとか『時かけ(時をかける少女)』とか...今のおやぢ共が萌え萌え言ってた(言わないけど)作品ですな...最近ではアニメ化された『パプリカ』?
原作の設定は押えてまして、面白そうだなとは思うけど読んではいないな...アニメ共々どうなんざんしよ?
斜に構えて、物事に対して批判的・皮肉的な視点で捉えて物語に投影して、(騒がしく)こき下ろし倒すのが味ですが...
初期の頃の、大枠での批判姿勢が、後期になると、ただの皮肉...愚痴言ってるだけて終わる感じがしますなあ。
どの神様も、年齢には勝てないて事ですかね...
⇒ 追跡者は、胎児の死体を、臍の緒を持ち鎖がまのように振り回しながら追跡する。
⇒ まさに汚物の墓場の下水管を通り抜けマンホールからこっちの世界に入りこんだものの、いまやあっちの世界へ脱出だ!
もう脱出するための行動しかのこされていないのだ。
パロディ作品と自らで述べているが...やはり、元はドグラ・マグラが大きく占めているよな。